猩々通信
HTML
風花歌集2

200-2001 by 猩々

BACK HOME PC



オバヤンの
謎謎可笑
なぁーんぞ
糸を絡めて
ギッタンバッコン

井戸掘は
赤土まみれ
風呂をあび
祝儀の酒で
また赤くなる

引出に
ジャックナイフと
銃の弾
父の秘密の
宝物

押し出され
復帰はしても
格下げの
回り将棋は
ションベンばかり

黄衣の
団扇太鼓の
お貰いの
後を歩いて
飴玉貰う

起こされて
立ち回りを見た
土産回り
蜜柑も飛んだ
田舎の小屋は

吸殻の
散らばる電車は
便所付き
靴拭きに剥ぐ
椅子の別珍

弧を描き
チラシばら撒く
ムスタング
視野いっぱいの
抜ける青空

算盤の
塾の休みの
十五日
オバヤン集う
お地蔵の堂

紙芝居
なななか抜けぬ
飴の芯
御地蔵様の
餓鬼の溜まり場
手を取って
哀れと泣いて
くれた祖母
長持ちの底の
里家の大小

戦中は
飛行機造りの
父の耳
ハリマオみたい
ピアスの穴が

祖母と行く
お地蔵様の
お祭り日
団子貰って
満月の夜

沢庵の
臭いの篭る
物置の
林檎の箱の
ブリキの玩具

馬喰の
台車を追った
砂利の道
かけっこくらべ
馬糞の恵み

蝿たかる
新聞紙の
サザエさん
仄かに暗き
便所小屋朝

迫り来る
地鳴りに耳を
奪われた
古い校舎の
音楽室で

半ベソの
ベーゴマ廻しで
お情の
コマは天下に
ぐるぐる回る

兵隊は
戦車の引っ張る
タンク上
田舎の道に
地響き立てて

十五夜の
武勇を語る
帰り道
小心者の
肩身は狭い

花火鳴り
運動会は
秋の日の
稲荷海苔巻
出店が並ぶ

ケンチンに
秋刀魚の御馳走
恵比寿講
一升枡に
アトムの財布

秋深し
十日夜の
藁鉄砲
竹馬の友の
声が聞こえる

干拓の
揚水場の
橋の上
保育園の
写真色あせ

黒虎に
涙で遣るる
猫まんま
野良を吹き抜く
赤城の颪

トッカンの
弾ける音や
冬の空
唐麦米を
袋に入れて

自転車の
風切りに棲む
鎌鼬
パックり割れて
手の甲の骨

雪を待つ
来る日も来る日も
空っ風
蜜柑の箱の
橇は淋しい

雪が降り
映画のシーン
思いだし
桑の小枝の
チャンバラごっこ

雪が振り
赤城颪も
一休み
耳の霜焼
痒さ増す時

南天で
姉の造った
雪兎
忽ち増えた
仔兎の群

雪の日の
食い付くような
湯の熱さ
砂糖をまぶした
丼の雪

祖母が来て
父の手術を
告げた冬
火鉢の前で
泣く姉弟

霜の立つ
松の林に
空っ風
熊笹騒ぐ
学校帰り

追込みの
漁を行なう
岸辺には
脚をもがれた
白い沼蟹

鼻面で
土竜の穴を
ラッセルし
クロクロお居出
飯が出来たよ

立ち尽くす
陸稲田圃の
只中に
学校帰りの
風花の嵐

天井を
叩いて落とす
冬の蝿
頚長瓶の
玉の冷たさ

オジヤンは
股疋穿いて
麦を踏む
ぴょこぴょこ揺れる
白い丁髷

柿の木に
搖れる蓑虫
観察日記
三日坊主に
空っ風は吹く

駄菓子屋の
裂き烏賊鶉
桜海老
七輪囲む
煎餅文殊焼
だがしやの
さきいかうずら
さくらえび
ひちりんかこむ
せんべもんじゃき

海苔餅を
干せば年越し
準備良し
煎餅餅と
俚諺ある由

竹笊に
小豆を擦って
晒餡
三元日を
祝う御汁粉

…風花歌集完結…