オバヤンの 謎謎可笑 なぁーんぞ 糸を絡めて ギッタンバッコン 井戸掘は 赤土まみれ 風呂をあび 祝儀の酒で また赤くなる 引出に ジャックナイフと 銃の弾 父の秘密の 宝物 押し出され 復帰はしても 格下げの 回り将棋は ションベンばかり 黄衣の 団扇太鼓の お貰いの 後を歩いて 飴玉貰う 起こされて 立ち回りを見た 土産回り 蜜柑も飛んだ 田舎の小屋は 吸殻の 散らばる電車は 便所付き 靴拭きに剥ぐ 椅子の別珍 弧を描き チラシばら撒く ムスタング 視野いっぱいの 抜ける青空 算盤の 塾の休みの 十五日 オバヤン集う お地蔵の堂 紙芝居 なななか抜けぬ 飴の芯 御地蔵様の 餓鬼の溜まり場 手を取って 哀れと泣いて くれた祖母 長持ちの底の 里家の大小 戦中は 飛行機造りの 父の耳 ハリマオみたい ピアスの穴が 祖母と行く お地蔵様の お祭り日 団子貰って 満月の夜 沢庵の 臭いの篭る 物置の 林檎の箱の ブリキの玩具 馬喰の 台車を追った 砂利の道 かけっこくらべ 馬糞の恵み 蝿たかる 新聞紙の サザエさん 仄かに暗き 便所小屋朝 迫り来る 地鳴りに耳を 奪われた 古い校舎の 音楽室で 半ベソの ベーゴマ廻しで お情の コマは天下に ぐるぐる回る 兵隊は 戦車の引っ張る タンク上 田舎の道に 地響き立てて 十五夜の 武勇を語る 帰り道 小心者の 肩身は狭い 花火鳴り 運動会は 秋の日の 稲荷海苔巻 出店が並ぶ ケンチンに 秋刀魚の御馳走 恵比寿講 一升枡に アトムの財布 秋深し 十日夜の 藁鉄砲 竹馬の友の 声が聞こえる 干拓の 揚水場の 橋の上 保育園の 写真色あせ 黒虎に 涙で遣るる 猫まんま 野良を吹き抜く 赤城の颪 トッカンの 弾ける音や 冬の空 唐麦米を 袋に入れて 自転車の 風切りに棲む 鎌鼬 パックり割れて 手の甲の骨 雪を待つ 来る日も来る日も 空っ風 蜜柑の箱の 橇は淋しい 雪が降り 映画のシーン 思いだし 桑の小枝の チャンバラごっこ 雪が振り 赤城颪も 一休み 耳の霜焼 痒さ増す時 南天で 姉の造った 雪兎 忽ち増えた 仔兎の群 雪の日の 食い付くような 湯の熱さ 砂糖をまぶした 丼の雪 祖母が来て 父の手術を 告げた冬 火鉢の前で 泣く姉弟 霜の立つ 松の林に 空っ風 熊笹騒ぐ 学校帰り 追込みの 漁を行なう 岸辺には 脚をもがれた 白い沼蟹 鼻面で 土竜の穴を ラッセルし クロクロお居出 飯が出来たよ 立ち尽くす 陸稲田圃の 只中に 学校帰りの 風花の嵐 天井を 叩いて落とす 冬の蝿 頚長瓶の 玉の冷たさ オジヤンは 股疋穿いて 麦を踏む ぴょこぴょこ揺れる 白い丁髷 柿の木に 搖れる蓑虫 観察日記 三日坊主に 空っ風は吹く 駄菓子屋の 裂き烏賊鶉 桜海老 七輪囲む 煎餅文殊焼 だがしやの さきいかうずら さくらえび ひちりんかこむ せんべもんじゃき 海苔餅を 干せば年越し 準備良し 煎餅餅と 俚諺ある由 竹笊に 小豆を擦って 晒餡 三元日を 祝う御汁粉 …風花歌集完結… |