小下沢に 車輪の足の 犬遊ぶ 山に可細く 邯鄲は鳴く 秋の夜長の 丹沢歩き 貧乏人の 地図登山 カップルの 写真に映す 秋の空 腕をのばして 自分の写真 ラーメンを 喰えば忽ち 緩む腹 通草転がる 隘路を急ぐ 山道の 女の脚は 速くなり ヒタヒタ迫る 秋の夕暮れ 婆の居ぬ 茶店の庭に 升麻咲く 速く下りろと 怒られそうだ 蟋蟀は 湯呑の縁で 暖を採る 指のささくれ 秋も深まる 傘挟み 漫画に耽ける 女子高生 車窓に流れる 秋の長雨 健診の 女医に驚く 秋生まれ 福助印の 甲又を買ふ 小下沢を じっと見つめて 秋思い 杣に佇む 独り身の猿 景信の 沢の頭に 上り詰め 猿と一緒の 岩の裾尾根 パーゴラの 通草啄む 鳥の群 買い弁当に 秋の風吹く 屋上の 社の上の 鰯雲 托鉢僧の 鈴の音高く 稲扱も 終わり夕闇む 田園の 藁塚掠め 蝙蝠は飛ぶ 階段で お愛想鳴きの ミーとチビ 釣瓶落しの 秋の夕暮れ ストーブに 脚長虫の 躙り拠る 紅葉の下の ラーメンの昼 外人の 逞女が 前に立つ 瞳に映る 秋の街並み ガソリンの ストーブ話に 花が咲く 職場の人の 青春時代 引け際の 店に駆け込み 得た腐哉 山のリュックに 小網と共に 中華屋の 向いに止まる 緊急車 日毎に違う 汁の塩梅 目覚めれば 陽は燦々と 冬の朝 リュックに詰めた クサヤ眺める 時雨止み 夜霧に霞む 並木道 ハタハタ下げて 家路を急ぐ 百円を 二杯も捌く スルメイカ 下足焼き乍 糀揉み解ぐ 吾を見て 烏待つ猫 ニャーと鳴く 垣根日溜り 小春日の朝 ジャンバーの 袖で温ったか 指の先 まだ青々と 並木の銀杏 スニーカー 今日は何処迄 歩こうか 団地を被う 欅の落葉 滝壷を 見おろす崖の 宿り木で 攀路を探す 逆沢の冬 逆沢を 辿って知った その由来 落葉の仲に 迷い出す我 逆沢の 沢の頭に 取り付いて ストーブ焚いて 豆餅食べて 逆沢の 頭の向きに 惑わされ 行きつ戻りつ 落葉踏み締 捲きに捲き 何処と知れぬ 山道に 見慣れた瘤に 安堵する午後 降り来れば 関所祭りの 甲州路 手形スタンプ 黄梅の落葉 寝ては醒め 現に惑う 山道の ベランダに舞う 枯葉の嵐 久方の 手打蕎麦屋の 大蒸籠 並木の銀杏 鮮やかに散る やっと来た 青い香りの 蒸籠蕎麦 チョキでも切れぬ 意地の張合い 職人が 奥で窺う 二見浦 蕎麦口直し ドトールの店 葉の落ちた 銀杏並木に 聖夜灯 久方の雨 家路を急ぐ 真姿の 池の氷を 見る車窓 押し付けられた ドアの冷たさ 残雪の 兎の足跡 飛び跳ねて 捲き道急ぐ 年の瀬の山 景品の スリッパ片方 籤の点 ミスドで食べる ラーメンの暮れ |