猩々通信
HTML
回峰新世紀3


2001 by 猩々

BACK HOME PC



小下沢に
車輪の足の
犬遊ぶ
山に可細く
邯鄲は鳴く

秋の夜長の
丹沢歩き
貧乏人の
地図登山

カップルの
写真に映す
秋の空
腕をのばして
自分の写真

ラーメンを
喰えば忽ち
緩む腹
通草転がる
隘路を急ぐ

山道の
女の脚は
速くなり
ヒタヒタ迫る
秋の夕暮れ

婆の居ぬ
茶店の庭に
升麻咲く
速く下りろと
怒られそうだ

蟋蟀は
湯呑の縁で
暖を採る
指のささくれ
秋も深まる

傘挟み
漫画に耽ける
女子高生
車窓に流れる
秋の長雨

健診の
女医に驚く
秋生まれ
福助印の
甲又を買ふ

小下沢を
じっと見つめて
秋思い
杣に佇む
独り身の猿

景信の
沢の頭に
上り詰め
猿と一緒の
岩の裾尾根

パーゴラの
通草啄む
鳥の群
買い弁当に
秋の風吹く

屋上の
社の上の
鰯雲
托鉢僧の
鈴の音高く

稲扱も
終わり夕闇む
田園の
藁塚掠め
蝙蝠は飛ぶ

階段で
お愛想鳴きの
ミーとチビ
釣瓶落しの
秋の夕暮れ

ストーブに
脚長虫の
躙り拠る
紅葉の下の
ラーメンの昼

外人の
逞女が
前に立つ
瞳に映る
秋の街並み

ガソリンの
ストーブ話に
花が咲く
職場の人の
青春時代

引け際の
店に駆け込み
得た腐哉
山のリュックに
小網と共に

中華屋の
向いに止まる
緊急車
日毎に違う
汁の塩梅

目覚めれば
陽は燦々と
冬の朝
リュックに詰めた
クサヤ眺める

時雨止み
夜霧に霞む
並木道
ハタハタ下げて
家路を急ぐ

百円を
二杯も捌く
スルメイカ
下足焼き乍
糀揉み解ぐ

吾を見て
烏待つ猫
ニャーと鳴く
垣根日溜り
小春日の朝

ジャンバーの
袖で温ったか
指の先
まだ青々と
並木の銀杏

スニーカー
今日は何処迄
歩こうか
団地を被う
欅の落葉

滝壷を
見おろす崖の
宿り木で
攀路を探す
逆沢の冬

逆沢を
辿って知った
その由来
落葉の仲に
迷い出す我

逆沢の
沢の頭に
取り付いて
ストーブ焚いて
豆餅食べて

逆沢の
頭の向きに
惑わされ
行きつ戻りつ
落葉踏み締

捲きに捲き
何処と知れぬ
山道に
見慣れた瘤に
安堵する午後

降り来れば
関所祭りの
甲州路
手形スタンプ
黄梅の落葉

寝ては醒め
現に惑う
山道の
ベランダに舞う
枯葉の嵐

久方の
手打蕎麦屋の
大蒸籠
並木の銀杏
鮮やかに散る

やっと来た
青い香りの
蒸籠蕎麦
チョキでも切れぬ
意地の張合い

職人が
奥で窺う
二見浦
蕎麦口直し
ドトールの店

葉の落ちた
銀杏並木に
聖夜灯
久方の雨
家路を急ぐ

真姿の
池の氷を
見る車窓
押し付けられた
ドアの冷たさ

残雪の
兎の足跡
飛び跳ねて
捲き道急ぐ
年の瀬の山

景品の
スリッパ片方
籤の点
ミスドで食べる
ラーメンの暮れ


△page top