猩々通信
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毛糸の帽子2

1997-1999 by 猩々

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帽子編む
決心就かず
過ごす日々
知らんぷりする
茶髪娘兒

オカダヤの
ロゴの入った
紙袋
TVの横に
埃被って

転がった
ジェームス・ディーンの
毛糸玉
忍び笑いの
谺する家

ミッキーの
編物絵本を
括りつつ
ああしてこうして
秋は更け行く

……………………

嵐去り
春分の日の
昼下がり
大学通りに
鴬は鳴く

レンギョウの
花をくわえた
鵯は
桜の枝で
嘴迷う

酒切らし
眠れぬ夜に
隣から
猫来て遊ぶ
梅雨の只中

夏の夜の
夕立過ぎた
通りには
人犬猫と
白い蝉あり

ラグビーの
学生集う
グランドで
木の間に聳える
電話のアンテナ

二筋の
飛行機雲の
冬の空
山への思い
抱き街行く

チョコの日に
母子で作る
プレゼント
我は身支度
回峰日和

車窓より
望む富士の峰
真白にぞ
高尾の山も
雪のあるかも

複雑な
鳥の鳴き声
聞き成して
あれこれ思う
鎌沢の道

猩々の
冥土の旅の
置き土産
なんてネ楽しい
SF世界

サボテンの
今宵咲く花
猫の手が
鵯の鳴く
朝の始まり

今日もまた
スマイルを売る
マクド店
昼顔の咲く
植え込みに蜘

木の上で
雨蛙鳴く
梅雨の朝
大学通りに
サンダルの音

梅雨の朝
日傘差し行く
人あれば
行きつ戻りつ
蝙蝠の僕

蝦の子に
悲鳴を上げる
女子高生
大学通りの
梅雨晴れの夕

多摩川は
波の音高く
わき返る
嵐の過ぎた
終戦記念日

稲の穂は
嵐の後に
花を付け
国政訝し
終戦記念日

老人が
ヘマムシを描く
汽車の窓
碓氷峠に
沢の残雪

うらめしや
落雷騒ぎの
中央線
野球はもはや
終わってけつかる

山行きに
手帳をくくり
プラン練る
ボトルに詰める
酒の冷たさ

贅沢の
終わりの日の来る
秋の日の
コーヒーショップの
朝の明るさ

いたずらに
馬鈴薯重ね
潰し金
芋のサラダの
痛心日記

立冬の
ベランダで鳴く
草雲雀
ポケット瓶に
詰めた焼酎

出社前
枯葉蹴散らし
行く人を
窓越しに見る
コーヒーの店

山道の
踏み場もないほど
ザトウムシ
峰の薬師の
秋は深まる

……………………

思い出を
探して歩く
遊歩道
金木犀に聞く
あのアパートは

昔日の
思い出在りし
白薇荘
溢れた川は
アスファルトの下

秋晴れの
妙正寺池に鴨の群
夜霧に煙る
灯の思い出

冬の日の
妙正寺池に
鴨の群れ
喧嘩していた
あの日の夜は

鴨の居る
善福寺池に
ボートあり
遊ぶ親子に
我を忘れて

若い日の
遥か彼方の
忘れもの
探し彷徨う
秋の一日

朝寒し
膝の古傷
痛み出す
歩き疲れた
秋の一日

剃刀の
鉄の響きに
朝寒し
滅法増えた
白い顎髭

……………………

寝坊する
朝の寒さに
ベスト着る
久方ぶりの
バスもまた寒

蛇の子に
日向でしばし
小休止
夕暮れ迫る
臼杵の山道

西日受け
黒地に赤い実
蝮草
デジカメで撮る
パソコンに秋

外人は
駅の表示を
睨みつけ
車窓に映る
山の紅葉

雉鳩は
何気ないふり
装って
お相伴する
高尾山の秋

くるくると
鶴柿剥けば
目を見張る
高尾の山の
小さな登山者

吐く息が
めっきり白く
なった朝
電車でずっと
鼻するる奴

鼻すする
可愛い音に
振り向けば
黄髪ミニスカ
真っ黒な君

山行の
電車に乗れば
冬の日の
丹沢越しに
白い富士山

一人行く
小下沢の道
水の音は
山にこだまし
鳥もまた鳴く

紅葉に
担架を持った
救助隊
後に続いた
ハイカーの列

初霜の
朝にリュックの
老夫婦
女子校生の
波に埋もれて

寒い路地
サンダルくわえた
柴犬は
散歩に行こうと
誰彼誘う

恵比寿講の
季節に催す
大バーゲン
けんちん汁と
秋刀魚懐かし

街路樹に
木枯し一号
吹き抜けて
古里恋し
風花恋し


…毛糸の帽子完結…